もう、二十年以上前のお話です。

「産後は体質が変わる」とは聞いていたけれど、まさかこれほどまでとは。

二十代で出産を経験した私を待っていたのは、想像を絶するトラブルの連続でした。

母乳が出ていたので、「母乳パッド」という丸いナプキンのようなものを下着につけていたのですが、それでさえかぶれる。

乳輪の周りがかゆくて、気づけばボリボリかきむしり、気づけば血だらけ。

今まで普通に使っていた日焼け止めでも、肌が真っ赤になり、かぶれるように……。

体が別人になったようでした。

追い打ちをかけるように、元々少なかった髪の毛が「ごっそり」と抜け落ちていったのです。

鏡を見るたびに募る不安。「このまま、地肌が丸見えになってしまうのでは……?」

育児でバタバタの毎日。

藁にもすがる思いで皮膚科へ行きました。

しかし、診察室の扉を開けた瞬間に目に入ってきたのは、あまりにも「説得力に欠ける」光景でした。


第一印象は「先生、あなたもですか!」

診察室の椅子に座っていたのは、とても優しそうで、そして……見事なまでに「ハゲている」先生でした。

私の悩みは深刻です。抜け毛に怯え、頭皮の未来に絶望している二十代。

そんな私を前に、先生は真剣に耳を傾けてくれました。

処方されたのは、見たこともない「謎の緑色の液体」。

(最近になって調べてみるとたぶんあの薬は『フロジン外用液』だったようです。これは今でも使われている脱毛症治療の外用薬です。)

しかし、私の心の中では、もう一人の自分が冷静にツッコミを入れていました。

あゆう

先生、その薬、先生自身は使ってないんですか……?

もし先生の頭がフサフサなら、その緑の液体は「魔法の薬」に見えたはず。

でも、目の前の現実はあまりに眩しく、私の信頼感は音を立てて崩れていきました。

「眼鏡の眼科医」に通じる、あの違和感

これって、眼科に行ったら先生が眼鏡をかけていて、「レーシック手術って本当に意味あるのかな?」と疑ってしまう感覚に似ています。

あるいは、管理栄養士の先生がふくよかだった時の、あの言いようのない「お互い様感」。

結局、育児の忙しさも相まって、「先生が治ってないなら、私が治るわけないよね」という勝手な決めつけと共に、緑色の薬とは数ヶ月でお別れしてしまいました。


時が解決してくれたこと、そして今の選択

幸いなことに、産後の抜け毛や肌荒れは一時的なものでした。

しばらくすると、劇的ではないにせよ髪は戻り、肌の過敏さも落ち着いていきました。

あの時、もし先生がフサフサだったら、私の薄毛格闘史はもっと違った展開になっていたかもしれません。

現在はAGA治療も進歩し、飲み薬や外用薬など選択肢も増えています。

実は私もその後、未承認薬を海外から個人輸入して試しています。(そのお話もまたいつか書こうと思います。)

若き日の私が、診察室で「先生の頭」を二度見したあの日。 切実だったはずの悩みも、今となっては笑い話のひとつです。

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